苦恋症候群
階段の手前には、小さな窓がついている。

そこから見えた外の様子は、太陽がさんさんと輝いていてまぶしいくらいだ。

昨日とは打って変わって、今日はこの時期にしてはあたたかい。

今朝からの陽射しで、積もっていた雪もほとんど解けているようだった。

歩道が解けた雪でぐちゃぐちゃになるのは、厄介なところだけど。


階段を下りて4階にたどり着いたところで、ちょうど数メートル先にある事務部のドアが開いたのが見えた。

中から、誰か出てくる。室内に向かってぺこりと会釈しながら、ドアを閉めようとしているその人物は──。



「っみ……」



とっさに自分の口を片手で塞いだけど、彼の耳には届いたようだった。

何気なくこちらを流し見て、そして私と目が合った瞬間、少しだけ驚いたように口を開ける。


そうしてそのくちびるが、何か言葉を発する前に。

気づけば私は、踵を返していた。
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