苦恋症候群
「……違う」



しぼり出すようなその声に、呆然としたまま彼を見上げた。

苦しげに眉を寄せて私を見つめるその表情は、いつかの『嫌いだ』と言われたときに見た横顔と同じで。否応なしに、心臓がはねる。



「違う、誰でもよかったわけなんかじゃない。……俺は、森下さんだったから」

「み……」

「雪妃のことを話したのは……話せた、のは……あなただったからだ。ずっと、俺の中で、あなただけは特別だった」



私の頬に触れてる左手の親指で涙袋のあたりをなぞりながら、くしゃりと三木くんが顔を歪ませた。



「昨日、夜中に目覚めたとき……森下さんがいなくなってたから。心臓が、止まるかと思った」



──ああ、そうだ。

そうやって、雪妃さんは。



「ご、め……ごめんね、三木くん」



馬鹿だ、私。

また、彼を不安にさせた。


泣きそうになる私の頬から手を離し、今度はそのまま、髪を撫でられた。

今さらながら、どくんどくんと、心臓が激しく音をたてる。
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