苦恋症候群
XX◇エピローグ
2月にしてはとてもあたたかい、晴れた日だった。
「さとり、何話してたの?」
水道の横にある棚に柄杓と手桶を返しながら、遥くんが訊ねてきた。
意味がわからなくて首をかしげると、「雪妃の墓の前で、長いこと手を合わせてたから」って彼が付け加える。
私は笑って、人差し指をくちびるの前に立てた。
「ふふ、内緒! 女同士は、いろいろと積もる話があるの」
「……そうですか」
ちょっとだけ納得いってないような表情で、それでも彼はそれ以上の追及はしてこない。
別に、変なことは話してないんだけどな。一応私の自己紹介と、遥くんをこれからも見守っていてくださいねっていうお願い。
きっと雪妃さんは全部ご存知なんだろうし、遥くんのことも、私がお願いしなくたってずっと見ていてくれるんだろうけど。