苦恋症候群
くるくると私の髪を指先に巻き付けて弄びながら、彼は続けた。



「ああそれか、さとりが自分のアパート引き払ってウチ来てもいいけど。そっちのが手っ取り早いし」

「な……っ」

「ああでも、どっちにしろ子ども産まれたら手狭だな。ふたりは欲しいしな」

「~~ッ、」



ポンポン出てくる恥ずかしい提案に、もう、言葉にならない。


信じらんない。信じらんない信じらんない。

強引すぎるでしょ、この男。



「……さとりは、嫌?」



急にしおらしく首をかしげて訊ねてくるから、ぐっと息が詰まる。

……ずるい。嫌なわけ、ないのに。


ふるふると首を横に振ると、遥くんはうれしそうに笑って、ちゅっと私にくちづけた。

ま、周りにも車停めてあるのになんてことを……!

……なんて思っても、ただ私は顔を真っ赤にするだけで、パクパクと口を動かすことしかできない。

そんな私の様子に満足そうに微笑んで、彼はサイドブレーキを解除してからギアをドライブに入れた。

私は熱くなってしまった頬を冷ますように、少しだけ助手席の窓を開ける。
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