苦恋症候群
「そ。だからこの家に泊まるの、女では雪妃が初めてです」



思いがけないその言葉。うれしさに、つい頬が緩む。



「へへ。そうなんだ」



不自然なくらいよろこんでしまっているのを悟られないように、「カーテン閉めるね」と言って彼に背中を向けた。

窓際へと近づきながら、小さく息を吐く。


いつだって無邪気にあたしの名前を呼んでくれていた、かわいかった遥が。

どんどん大人になって、かっこ良くなっていく。

それはあたしにとって誇りで、そして脅威でもあった。

見た目だけじゃない。彼は、とても魅力的だから。

遥のことをすきになる女の子なんて、いくらでもいる。


中学生になってから、遥に彼女ができるようになった。

年頃の男の子なんだから、そんなのは当たり前のことだ。

だけどあたしは、そのたびに打ちのめされて、誰にも気づかれないように泣いて。

そうして遥が彼女と別れた、という話を聞くたび彼にやさしい言葉をかけながらも、心の中では安堵していた。そんな、ひどい女なのだ。
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