苦恋症候群
駅に向かって歩きながら、背後から車の音がしているのは気づいていた。

何気なく、後ろを振り返って。そしてあたしは、瞠目する。

こちらに向かってきている、白のハイエースが。

普通ではありえない様子で蛇行しながら、近づいてきていたから。



「……ッあ」



──逃げなきゃ。

そう思ったときには、もう、遅かった。


身体に、大きな衝撃が走る。気づいたらもう、あたしは冷たい雪の上に横たわっていた。

あたしにぶつかった車は、1度は停止しかけたものの、またスピードを上げて走り去っていく。

白い世界に、ひとりきり。



「………」



身体、動かない。氷のように冷えきった地面に横たわっているはずなのに、だんだん、その冷たさも感じなくなっていく。

今、暑いのか、寒いのか。立っているのか、横になっているのか。それすらも、わからなくなる。

自分の周りに、赤い血が広がっていく。
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