苦恋症候群
番外編【ダークホースに冠を】
朝目が覚めたら、見知らぬ部屋の見知らぬベッドの上で。
裸の見知らぬ男が、隣に寝ていました。
……なぁんてそんなベタな体験、自分は絶対にしないと思ってた。
だけどあたしの場合、ちょっと事情が違う。
たしかに今現在自分がいるのは、見知らぬ部屋の、見知らぬベッドの上ではあるけれど。
隣で寝息をたてている男は、見知らぬ人物ではなく……むしろ自分はとてもよく知っている人物というのが、また厄介で。
「……さいあく……」
ベッドで上半身を起こし、何も身につけていない身体を隠すように掛け布団をたぐり寄せて、ボサボサの髪をかき上げる。
小さくつぶやいた声は予想以上に涸れていて、失態ともいえる昨晩の乱れた自分を思い出し、不可抗力で頬が熱くなってしまった。
ちらりと視線を向けた先で眠っているのは、山瀬航(やませわたる)くん。通称ヤマくん。
あたし、葉月美礼と彼は──……7年来の、会社の同期だ。
『苦恋症候群』番外編
~ ダークホースに冠を ~