苦恋症候群
間を置かずに、背を向けたままの三木くんは言葉を返す。



「別に、森下さんが引く必要はないと思いますけど」



……ああ、うん、やっぱりか。

そりゃあね、一応、私のが2年先輩だし。いくらイイ性格の三木くんでも、そう言うよね。


だけども次に彼が放った言葉は、私の予想の、斜め上を行くものだったのだ。



「だってここ、森下さんが先に見つけた秘密基地なんでしょう?」



そのセリフに驚いて、踵を返しかけていた私はまた彼のいる方を振り返る。

三木くんも、同じように私を見ていた。



「……ん、わかった。ありがとう」

「別に、礼言われることではないと思いますけどね」

「かわいくないな。……それじゃ、お疲れさま」

「お疲れさまです」



今度こそドアノブを回し、屋上を後にする。

コツコツと靴音を鳴らして階段を下りながら、なぜか自然と口元が緩んだ。


やっぱり最後までクールぶってるくせに、意外とかわいいこと言うじゃないか、三木くん。

彼の言う『秘密基地』というフレーズに、どこか懐かしいときめきを覚えて。

このとき私は年甲斐もなく、小さく胸を高鳴らせていた。
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