苦恋症候群
夏至に向けて、まだ明るい灰色がかった青空。

そこに白い月が映える、綺麗な夜だった。


やはりと言うべきか、私が通勤用の私服に着替えて約束のバーに来てみても、まだそこに真柴課長の姿はない。

ふう、と小さく息をついてから、私はカウンターの1番出入口から遠い席に腰を下ろした。

注文を訊ねてきたマスターに「人を待っているので」とやんわり断りを入れ、棚に並んだお酒やグラスをぼうっと見つめる。


以前来たときも思ったけれど、雰囲気のいいお店だ。

まだ早い時間だからか、人もまばらで喧騒は気にならない。

真柴課長は、ここの常連なのだろうか。……奥さんを連れて、来たりもするのかな。


──カラン。

そんなことを考えていると、ドアに備えつけられた品のいいベルの音がした。

出入口に目を向けてみれば、昼間見たときと同じスーツ姿の真柴課長が店内に入ってきたところ。

彼はマスターにひとこと声をかけると、カウンター席にいる私の姿に気がついてこちらへと近づいてきた。
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