苦恋症候群
「悪い、やっぱり遅れた」

「ふふ。10分なら、許容範囲です」



軽口をたたく私に「そりゃよかった」と苦笑し、課長は右隣の席に座った。

何も置かれていない私の前を見て、小さく首をかしげる。



「なんだ、まだ何も頼んでなかったのか?」

「ええまあ、課長が来てからと思って」

「気にしなくていいのに。ほら、好きなの頼め」



そう言って真柴課長が、マスターから受け取ったメニューを私に寄越した。


……う、やっぱり課長の体つきも、モロタイプ……。

上着を脱いでネクタイを緩めるその動作にひっそり見とれて、自然と胸を高鳴らせた。

自身を落ちつかせるように、メニューへと視線を落とす。



「ええっと……じゃあ、ファジーネーブルで」

「おいおい。そんなジュースみたいなのでいいのか?」

「人のこと何だと思ってるんですか! ……今喉渇いてるんで、最初はゴクゴク飲めるジュースみたいなのでいいんです」

「はは、十分酒強いヤツのセリフだろ」



課長は笑って、マスターに私と自分の分のお酒をオーダーした。

すぐに出てきたファジーネーブルとシャンディガフのグラスを、それぞれ持ち上げる。
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