苦恋症候群
「それじゃ、今日も1日ご苦労さんってことで」

「ふふっ、ハイ。お疲れさまです」



カチン、とグラスを合わせ、各々お酒を口に含む。

ごくん、ごくんと一気に5口ほど流し込んだ私に、課長がにやりと笑った。



「やっぱいーなあ、森下の飲みっぷりは。女にしとくのもったいない」

「ちょっとそれ、どういう意味ですかー?!」

「はは。まあ、おまえが男だったら、もっと気軽に飲みに誘えるのにってこと」



何気なく発せられたその言葉に、どきりと心臓がはねた。

勘違い、しちゃダメだ。別に、課長が私のこと“オンナ”として見てるってことじゃない。

ただ私が生物学上“女”だから、単に誘いづらいってだけ。


私はへらりと笑みを浮かべて、わざとらしく右手を振った。



「えーっ、私女子力皆無で男みたいなもんですよ? いくらでも飲みに連れてってくれて構いませんよ?」

「どんだけ俺におごらせる気だよ。つーかおまえも、週末の金曜日に予定のひとつもないなんて寂しいなあ」

「ちょ、それ言わないでくださいよ……いやまあ、今日はたまたま空いてたんです! 彼氏いないアラサー女でも、それなりに予定は入ってるんですう」

「はいはい、そいつは失礼しました」
< 45 / 355 >

この作品をシェア

pagetop