苦恋症候群
拗ねたようなジト目を向ける私のひたいに、課長はぺしりとメニューを差し出す。



「おら、もうグラス空いてんぞ。酒と、あとなんか食うもん頼め」

「……ほんとにいいんですか?」



やんちゃだった新人の頃に比べると、一応私だって遠慮というものを覚えた。

しかも今日は初めて真柴課長と1対1で飲んでるから、余計に落ちつかない。

思わず伺いをたてる私を、やっぱり彼は笑い飛ばした。



「今さらなに遠慮してんだよ。おまえほんとに森下か?」

「ちょ、課長の中で一体私どんなイメージなんですか……」

「いーから、気にすんな。今日は俺がおまえと飲みたくて誘ったんだから」



そう言って、課長は本当になんでもないみたいに、ぐいっとシャンディガフをあおった。



「じゃ、じゃあ、遠慮なく」



対する私は自然と熱くなっていく頬を悟られないように、ひたすらメニューを見つめる。


……ずるいなあ、このひと。

ほんと、ずるい……。


ぎゅっと、メニューを持つ手を握りしめる。

私はマスターに注文をすべく、隣の課長を意識しないようにしながら顔を上げた。
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