苦恋症候群
【B会議室】と書かれたプレートの下にある表示は、使用中を示す赤いマークのままになっていた。

だけどさっきハナさんは、会議は終わっていると言っていたし。

開けっ放しになっているドアにも後押しされ、私は開いたままのドアを一応ノックする。



「失礼します」



私の言葉で、中に残って談笑していたふたりの人物が顔をこちらへと向けた。

よく見知ったその顔ぶれに、自然な笑みが浮かぶ。



「和田部長、……真柴課長。お疲れさまです」



真っ先に私の目に入ったのは、“あの人”の方。それでも口からは、無意識に役職順の名前が出る。

長テーブルの片隅で話していたらしいふたりも、それぞれ笑顔を向けてくれた。



「ああ、森下さんか。ご苦労さま」

「お話し中すみません。カップを片付けに来ました」

「おっと、それは邪魔したね」



そう言って先に椅子から立ち上がったのは、業務部の和田部長だ。

じゃ、ふたりともご苦労さん。そんなセリフを残して、白髪混じりの後ろ姿が部屋を出ていく。

室内に残されたのは私と、目の前にいる真柴課長だけ。
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