苦恋症候群
「珍しいな。事務部の森下が回収しに来るなんて」



言いながら真柴課長は立ち上がって、テーブルに点在するカップをひとかたまりに集めてくれる。

慌てて私もその行動に倣った。



「いや、さっき廊下を歩いてたら、おぼんを持った成瀬主任とバッタリ遭遇しまして」 

「……なるほど。さすが成瀬だな」



私の短い説明だけですべてを理解したらしく、真柴課長は苦笑する。

なんてったって、真柴課長はハナさんと同じ総務企画部所属だ。

直属の上司である彼も、傍若無人な彼女の性格はよく知っているはず。

……でも。


ふふ、とつい浮かんできた笑みを、おぼんの下に隠した。



「でも、真柴課長がいたから……成瀬主任さまさまです」



言いながら、ちらりと真柴課長を見上げる。

彼は一瞬驚いた顔をした後、すぐにふっと、気の抜けたような苦笑をこぼした。
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