苦恋症候群
半ばヤケクソ気味にその様子を観察していると、ようやく笑いを引っ込めたらしい彼が私に視線を戻す。



「はあ、わかりました。ゴメンナサイ、もう何もしません」



両手を挙げて降参のポーズをした三木くんが、そう言ってベッドから下りた。

いつの間にか床に落ちていたタオルを拾い、さらに私から距離をとる。



「そこまで言われちゃあ、何もできないですね。おとなしく、据え膳から手を引きます」

「……わかればよろしい」

「じゃあ俺、向こうにある森下さんの服持ってきますから。準備できたら、車で送っていきます」



──それとも、うちでシャワーだけでも浴びていきますか?


部屋を出る間際、肩越しにこちらを振り向いてそう訊ねてきた彼に、私は不機嫌な表情を返す。



「結構です!」

「ふ、了解」



完全に寝室から出て、後ろ手にドアを閉める。

私はベッドの上で、はーっと脱力した。

今になって、自分の身体が小刻みに震えていることに気づく。



「……びっくりした……」



いまだ激しい鼓動が鳴り止まない胸をぎゅっと右手で押さえて、深く、ため息を吐いた。
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