rain
となりの部屋で目覚ましが鳴り続ける。
誰もいない、ただ当時のままで、生活感のない部屋でも目覚ましだけは毎朝同じ時間に鳴り響く。その音がないと、母親は壊れてしまう。
「おはよう、母さん」
「おはよう、なつ。ほら顔洗って朝ご飯食べなさい。遅刻するわよ」
いつもと変わらない朝。
客間に置かれた仏壇には、俺の写真が飾られてある。
「今日部活は?遅くなるの?」
「…今日は休みなんだ。だけど遊んでくるから遅くなるかも。夕飯はいらないよ」
「あらそうなの?遅くなりすぎないようにね」
「わかったよ」
もう慣れたこのやり取り。
最初の頃は訳のわからないことを言う母親が母親でないような気がして、自分もパニックになっていた。
しかし時間が経つにつれて、母親は弱く、自分が支えていかなければいけない存在だと認識した。
もうこの世にはいない双子の兄・なつを演じることで母親が母親でいられるなら、俺はなつでいると決めた。