桜唄


「あれ?どうしたの?」

さっきのゆきちゃんが、こっちへ走ってくる。


「これっ忘れものっ」

ぜえぜえ息を切らせて、右手を突き出すゆきちゃん。

「お姉ちゃんのでしょ?」

「………あっ!」


ゆきちゃんの手に握られていたのは、さっき買ったまま取り忘れてたいちごみるくだった。


さっき私が買うところを見ていたらしい。


「ありがとう!」

そう言って、受け取ろうと手を出した。

が、途中で思いとどまって手をひっこめた。


不思議そうな顔をするゆきちゃん。


「あなたにあげる」

「え?」

「泣かなかったご褒美。」


にこっと笑ってみせる。


ゆきちゃんの顔がぱああっと明るくなった。

「ありがとう!お姉ちゃん!」

全開の笑顔でそう言った。



「…なんだよ、俺よりイケメン」

「へへ、それほどでも」


隣でぽそりとつぶやいた翠に、にこりと笑いかけた。



初夏の公園。

風が木々をゆらした。



< 10 / 130 >

この作品をシェア

pagetop