桜唄
「あれ?どうしたの?」
さっきのゆきちゃんが、こっちへ走ってくる。
「これっ忘れものっ」
ぜえぜえ息を切らせて、右手を突き出すゆきちゃん。
「お姉ちゃんのでしょ?」
「………あっ!」
ゆきちゃんの手に握られていたのは、さっき買ったまま取り忘れてたいちごみるくだった。
さっき私が買うところを見ていたらしい。
「ありがとう!」
そう言って、受け取ろうと手を出した。
が、途中で思いとどまって手をひっこめた。
不思議そうな顔をするゆきちゃん。
「あなたにあげる」
「え?」
「泣かなかったご褒美。」
にこっと笑ってみせる。
ゆきちゃんの顔がぱああっと明るくなった。
「ありがとう!お姉ちゃん!」
全開の笑顔でそう言った。
「…なんだよ、俺よりイケメン」
「へへ、それほどでも」
隣でぽそりとつぶやいた翠に、にこりと笑いかけた。
初夏の公園。
風が木々をゆらした。