桜唄
『希衣』
帰ろうとして、下駄箱の靴に手をかけたとき。
『あ、律!』
自分の顔がぱあっと明るくなるのが分かった。
いつもそう。
律と話せる機会があれば、いや、廊下で律の姿を見かけるだけで心が躍っていた。
律から話しかけられた日にはもう、寝るまでそのことで頭がいっぱいで何度も記憶を繰り返し思い出していた。
『どうしたの?』
るんるんで話しかける私。
…あれ?
律…笑ってないや。
浮かない表情の律。
どこかで何かを我慢しているような。
『これ、希衣に』
そう言って差し出された一通の封筒。
『手紙? え…律から?』
―――ドクンッ…。
心臓が跳ねる。
律からの手紙?
まさか…ラブレター…?
勝手な妄想だと分かっていても、どんどんふくらむ期待。
どくん…どくん…。
心臓が苦しいほどになっている。