桜唄
今更、後悔する。
なんであの時闘わなかったんだ。
自分の気持ちから逃げたんだ。
素直になれなかったんだ。
私の頬に一筋の涙がつたった。
風が吹いて、寒い冬が、濡れた肌から体温を奪った。
あのとき。
だめでいいから。
叶わなくてもいいから。
『好き』
これだけせめて、言っとけばよかった。
時間が戻らないのを知っているから、今の今まで自分に嘘ついて。
律が好きだった過去を隠蔽しようとして。
翠を好き。
そう言い聞かせて。
―――今更何を後悔しても遅いのに。
ばかだ。
もう戻れないのに。もう言えないのに。
ばかだ。
あの時、好きって言えばよかった。