桜唄
5月の夜風で髪がすこしなびく。
ブランコに座ったまま、しばらく二人は一言も話さなかった。
やけに長く感じたその少しの間、翠が何を考えていたのかはわからない。
しばらくしていきなり、
「ゆきちゃん、風呂入れたかな」
とつぶやいた。
翠はやさしい。
知ってる。
やさしすぎるのだ、この人は。
「…きっと入れたよ、私がいちごみるくあげたもん」
「それは関係ねぇだろ」
「…あはっ」
…なんだか、
久しぶりに笑ったような感覚だった。