桜唄
「希衣………いで」
「え?」
ざああぁっ…。
風が、木々をゆらした。
「いなくなんないで……」
風の中で、小さく小さく、でもはっきりと聞こえたその一言。
私をきつく抱きしめる翠は、わずかにふるえていた。
…翠は、気づいていたのかもしれない。
私の心がちがう場所にあることに。
律に向いていると知らなくても…翠にまっすぐじゃないことは分かっていたのかもしれない。
…この一年、ずっと気づいていたのかな。
それなのに、ずっと、私のことを笑わせて、優しくしてくれて。
…泣きそうだった。
「翠…ごめん」
私は翠の背中に手を回して、きつく抱きしめた。