桜唄
「ごめんね…」
私は思った。
翠にこんな悲しい顔、させたくない。
「なんで謝るの…別れ話とかやなんだけど」
翠の声は少し震えていた。
顔を翠の胸にうずめながら言う。
「……そんなんじゃないよ」
「…じゃあ、なんなんだよ」
翠の声は平然さを装っていたけど。
今にも壊れそうで、とてももろかった。
「…なんでもない」
これからは、翠とちゃんと向き合っていかなきゃ。
他の誰とも比べられない、ひとりの人として、この人を好きになるんだ。
律の代わりじゃない、ひとりの翠を。
一年たった、5月の最初の日。
甘くてしょっぱい夜だった。