桜唄


でも人が多くてなかなか見つからない。

しばらく窓の外を見ていた。


「じゃあこの英文を訳してください。えー…次は、野々宮さん」


…おだやかな声にいきなり名前を呼ばれてはっとする。


窓から目線を黒板にうつす。

先生がにこやかにこっちを見ている。

…このおっさん、性格悪いな。


いつの間にか先に進んでいる板書。

私が聞いてなかったのを分かって指したんだ。

…ほんとやなおっさん。


「すいません…わかりません」

小さい声で言った。


先生はわざとらしくあきれた顔をして、そしてまた、おだやかな声で言った。



「外じゃなくて授業に集中してくださいね、恋人が気になるのは分かりますが」


「…は!?」


先生の思いがけない一言に、クラス中がどっと笑った。


ありえない。

死にたいと思った。






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