桜唄


あの記念日の日以来、翠と真剣に向き合うようになった気がする。

翠を不安にさせたらいけない…

こんな義務感がなかったと言えばうそになるけど。


そして、律のことは考えないようにするために一方的にさけていた最近。

律の姿が視界に入ると、挨拶しなくていいように、避けるように別の道を通る。  

そういうわけで、律とはしばらく話していない。



逆に翠のことを考える時間を無理矢理増やした。

翠のために何かしてあげたいとか、一緒に帰りたいとか休みには遊びに行きたいとか思うようにする。

そうすると、自然と翠を好きになっていくような気がした。



翠は私を好きでいてくれる。

この人といれば傷つくことはない。


その安心感は、私のなかで大きなものになっていた。


…律を好きでいた時のように、胸がしめつけられるようになることもない。


そう思って、肝心な心の奥底の気持ちから、ずっと目をそらしてきた。

それがいちばん楽だった。
 
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