桜唄
自動ドアをくぐって図書館をでる。
「……あっつ」
外に出た途端蒸し暑い空気が希衣の体を覆う。
遠くの方から、笛や太鼓の音…夏祭りの音が聞こえてくる。
そっか…今日夏祭りだったんだっけ。
…私、なにしてんだろ。
なにこんなにムキになって勉強してるんだろ。
…なんでこんなに意地はってるんだろ。
自分の努力、心の葛藤がいきなり虚しく思えてきた。
…素直になればいい話なんだ。
わかってる。
わかってるけど。
『きーいー!教科書かしてー!』
『嘘、女子らしくていいじゃん』
『…どこにもいかないで…』
…罪悪感。
それに苦しみたくなかった。
翠の笑顔を失いたくない、
それ以上に
誰かの笑顔を消す罪悪にくるしみたくなかった。
…それだけじゃない。
自分だって。
もうフラれて傷つくのは、嫌で。
怖くて。
逃げたんだ。
それでそのまま、こんなに時間がたってしまった。
今更どうにもできなくなっていた。