桜唄


「数学わかんない、どうしよう希衣」

「え~…私もわかんない」


今日は併願校の私立の過去問を解いていたのだが、ここの高校の問題は数学がやたら難しい。

解説を読んでも理解するのが大変だ。


「もう11月になっちゃったね~…」

ため息まじりに楓花がつぶやく。

「ねー…早いなぁ」

あと1ヶ月とちょっとすれば私立の受験が始まる。

教室内の空気は次第にぴりぴりしてきていた。


「ここ、数学まじわかんない。先生に聞いてくる」

「あ、うん」


楓花は問題集を持って席を立って教室を出ていった。

長いきれいな髪がゆれた後、かすかにシャンプーのにおいがして、女の子らしいなと思った。



広い教室にひとりぼっちになった希衣。

窓際の夕日が差す席でカリカリとシャーペンを動かした。



…そのとき。


ガラッ。


教室のドアが開いた。







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