桜唄
「そっか…楓花喜ぶと思うよ」
ふふっと、私は笑った。
心からそう思った。
私だったら、こういう優しさに触れると心が芯からあたたまるような気分になるから。
「そうかな?」
また照れくさそうに伊崎くんが笑った。
「なあ、野々宮はどこの高校受けんの?」
伊崎くんが私の問題集をのぞき込みながら言った。
「ええっと…あ、麻西」
今のお前の頭じゃ麻西は届かない。
お姉ちゃんにも、担任にも、塾の統一テストの評価表にも、今までそんなことを言われてきた。
最近そこそこ点がとれるようになってきたけど、それでもまだ安定しないし安全圏には及ばない。
だから誰かに志望校を聞かれて、正直に麻西と答えるのが怖かったし恐れ多くて恥ずかしかった。
「さすがだな、お前。」
え?
はっとして顔を上げた。
伊崎くんはえらいまじめな顔をして
「野々宮、努力家だもんな。ぜったい受かるよ!」
と言ったのだ。