桜唄
「それじゃー俺はそろそろ行くかな」
よっこらせ、とかおやじみたいな声を出して伊崎くんが立ち上がった。
「帰っちゃうの?」
「うん。あいつ遅ぇから下駄箱にでも入れとく。俺これから塾なんだよ」
伊崎くんは残念そうに笑う。
「渡しとこっか?」
「いや大丈夫、ありがとな。そんじゃーまたね!」
…ピシャン。
教室のドアがしまって、空間が一気にしんとした。
…その遠くで。
『あ、楓花!』
『……千尋?』
声がした。
「…上手く渡せるといいな、伊崎くん」
シャーペンを握る。
思わず笑みがこぼれた。