桜唄


「それじゃー俺はそろそろ行くかな」


よっこらせ、とかおやじみたいな声を出して伊崎くんが立ち上がった。

「帰っちゃうの?」

「うん。あいつ遅ぇから下駄箱にでも入れとく。俺これから塾なんだよ」

伊崎くんは残念そうに笑う。


「渡しとこっか?」

「いや大丈夫、ありがとな。そんじゃーまたね!」


 
…ピシャン。



教室のドアがしまって、空間が一気にしんとした。


…その遠くで。





『あ、楓花!』

『……千尋?』





声がした。


「…上手く渡せるといいな、伊崎くん」


シャーペンを握る。

思わず笑みがこぼれた。


< 69 / 130 >

この作品をシェア

pagetop