桜唄


伊崎くんはまだ楓花のことが好きなんじゃないかな。


そんな気がした。

あの表情は、何とも思っていない子の話をするときの顔じゃない。


夏休みがあけたころ、楓花に何で当時別れたのか聞いてみたことがあった。

楓花いわく、お互い忙しくてすれ違ってしまったとのこと。

ふったのは伊崎くんからだったみたいだけど、心残りがあったんじゃないかなと思った。


…みんな、恋してるんだ。


苦しんだのは私だけじゃない。

みんなそれぞれ、自分の道をあるいているわけで、その行く先にそれぞれ困難があって。


でも乗り越えて人は強くなっていく。

いつかそういう時がくる。


「……ぜったい受かる」


つぶやいてみた。


口に出したら、言葉にしてこの世界に存在させてしまえば。

本当にそうなるような気がした。





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