桜唄
「あれ……?」
つぶやく少女。
伊崎くんじゃなかったから?
いたのが私だったから?
「…千尋はもう帰ったよ」
律が言った。
「…そっかぁ。じゃあ、あたしたちも帰ろっ?」
ゆめかちゃんが私から目をそらし、にこりと笑って律に向き直る。
くんっ。
ゆめかちゃんが律のコートを引っ張った。
「あたしお腹空いちゃった。ほら早くっ」
「あ…うん、そうだね」
律が私に目を合わせる。
「じゃ、またね」
少し笑った。
「…うんっ、またね!」
明るく返す私。
それを言い終わる前に、私から目線をはずして二人で廊下を歩いていった。