桜唄


「風邪引くなよ」


耳元でそうささやかれた。



「……っ、いきなりとかやめてよ」


真っ赤になって、寒いことも忘れた。



体が解放されて、さっきまで触れていた温度がなくなる。

ようやく寒さを感じる私。


ばっと振り向くと、翠はいたずらっ子みたいに笑ってた。


「そんじゃっ、また明日な」


いつもみたいにへらへら笑って、私とは反対方向に歩いていってしまった。



「…また明日」


キスされた耳を、手でさわる。


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