桜唄


信号が完全に赤になる。


車道の信号が黄色になる。

……赤になる。


私は今、横断歩道までたどり着く。



ほら。

間に合わないじゃんね。

頑張んなくてよかった。


…頑張んなくて、よかったのかな。

私。



ぶわっ…

「……さむ!」


また強い風が吹いて、前髪がぜんぶなくなる。

長い髪が後ろに勢いよくなびいた。



そうだよ。

もう終わったこと。


考えたって仕方ない。

前だけ見てた方が幸せ。

そうやって今日まで生きてきた。




そのとき。


「野々宮-」



後ろから、聞き慣れた声。


振り返った。

後ろをみてしまった。
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