桜唄


…どきりとした。

こんなタイミングで二人に会うなんて。


無邪気に手を振る伊崎くんと、両手をコートのポケットに突っ込んで半歩後ろを静かに歩く、律。


「あれ、ふたりとも塾?」


…なるべく平然さを装う。

笑え。

いつも友だちと話すみたいに。

外見だけは、繕わなくちゃ。


「そうだよー!野々宮は?」

「あたしはこれから図書館だよ」


そう、その調子。

二人はただの友だちなんだ。

何を意識する必要があるんだ。


にせものの笑顔。

本物のように見せるのは、いつのまにか得意になっていた。



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