桜唄


このまま大声を上げて泣きたかった。


心にあるわだかまりを全部、全部、

流してしまいたかった。



「……あ…」


図書館に向かって歩いているうちに、いつのまにか通り道の神社まで来ていた。


ここは、私と律が初めて言葉を交わした場所。







『あ…雨…っ!!』


傘をもってなかった私は、突然の雨に困った。

雨宿りをしようと思って一番近くにある建物…そう、この神社の鳥居をくぐった。


賽銭箱の横にあるスペース。

あそこなら、なんとか雨から身を守れそうだ。


ようやく屋根の下までたどり着く。


教科書がふやふやになっては困ると思い、持っていたハンカチで先にかばんの中身をふく。

小学生の時、いたずらっこの男子に帰り道突き飛ばされて田んぼに落ち、ランドセルの仲が水びだしになってしまったことがあった。

そのなんとも嫌な思い出から、教科書たちをなんとしてでも守らなければと思ったのだ。


教科書はなんとか大丈夫だったが、今度は自分だ。


水分をふくんで重くなった制服。

長い髪からは水滴が絶えることなくしたたる。

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