桜唄


『あっ…ありがとう!』


差し出されたタオルにとびつきたかった。

今すぐにでも、この冷えた体を拭きたかった。


…でも。


奥原くんも、ずぶぬれだった。


黒く少し長めの髪からは水滴が滴り、制服のズボンの裾なんか泥と雨水でぐちゃぐちゃ。

部活でも使っているだろう運動靴はもうたっぷりと水を含んでいて、きっと中の靴下もすごいことになっているだろう。


…それに。


思い出した。

陸上部は、中体連が今週なのだ。


風邪をひいたら困るのはどっちだ。


奥原くんは長距離の中でかなりの有力選手と聞いている。

前に伊崎くんが話していた。

中二にして市内で優勝争いをする実力だ、とかなんとか。

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