パパは幼なじみ
ママはスープ作りに意識を向け直しながら拓人に目配せする。
その視線を受け取った拓人が口を開いた。

「恵さん、アメリカ支社に転勤になったんだって。それで急だけど、今日出発。」
「…え?アメリカ?今日!?」

ママはパパが生きている頃からずっとアパレル関係の仕事をしていた。だから両親共働きには慣れていたし、今さら仕事のことで、私がとやかく言うことはない。
でも海外に行くって…

「そんな話、急に聞かされても…」
「もう!アメリカに渡るなんて出世なのよ?パパもだけど、もっと喜んでくれなきゃ!」
「あ、そ、そうだよね。恵さん、おめでとう」
「ママ。えと、おめでとう」
「「でも…」」

私と拓人の声がそろった。多分同じことを考えている。そう…

「私たちは日本に残るんだよね?」
「もちろんよ。学校も仕事もあるでしょ?」
「じゃあ、今日からの生活って…」
「真奈とパパの2人暮らしでしょ?はい、スープ持っていって!」

湯気を立てているわかめスープ。おずおずと受け取ったが、頭は現実を受け止められない。今日からこの家で拓人と2人きりの生活が始まる。

幼い頃の夢だったはずなのに、今はどうしたらいいかわからなかった。
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