まだあなたが好きみたい
「窪川貴様、たいした度胸だな、え? 堂々とした余所見に寝ぼけたうわごと、そしてその節操を欠いた言葉づかい。何様だ?
それともなにか、俺に何か含むところでもあるのか、あ? 言ってみろ、こら」
俺よりいくらか上背のある先生が近づくと、それだけでなんとはなしに迫力は増した。
が、近づけば近づくほどに匡の目は自然と額の根元に引き寄せられ、ついつい問題の箇所を凝視してしまう。
なんということだ。
まだ30前半なのに……。俺はいたたまれず口を押さえる。
最悪だ。
俺の不自然な視線の先に気づいたのだろう、先生の眉間にミミズのような血管が浮き出た。
俺は覚悟を決めていた。
「教科書持って、残りの時間、教室の一番後ろに立ってろ!」
……それは、致し方あるまい。
なんというか、ただもう、どうしようもなく、吉田菜々子、あいつが頭から離れない。
あれほど渇望していた部活中もあいつだけはしぶとく目の奥にちらついて、感覚が鈍り、手元がおろそかになることがたびたびあった。