まだあなたが好きみたい
「なんか最近、プレー荒くない?」
道具が収納されている倉庫で、匡は夏原に話しかけられた。
結局その日、計3回のファールを出してベンチに引っ込められた挙句、監督の指示で二軍と同じメニューをこなした匡は、入学以来はじめて二軍の部員と一緒に二軍の体育館を掃除するという屈辱を味わった。
掃除は一年の担当で、二年生は早々と部室へと姿を消した。
そのせいで話す相手のいない匡はひとり黙々とモップをかけて倉庫に戻った。そのときのことである。
一瞬、自分に話しかけられていることに気づかなかった匡は、隣に並んでモップを立てかけたのが夏原であることを知ってようやく今のが自分に向けられた問いかけであると認識した。
めったにないことに匡はうろたえる。口の中がいきなりからっからになった。
「さっきは悪かった。まだ、痛むか?」
なんとかそれだけを搾り出す。まだ心臓がどきどきしていた。
「ああ、へーきへーき。俺、中学はずっとハードルやってたんだ。だから足腰はまあまあ強いほう」
「ハードル」
「そう」
ハードル? ああ、ハードル。陸上のハードル、ね。
一瞬、ハードルがなにかわからなくなった。
自分にがっかりなほど動揺している。