まだあなたが好きみたい
それにしても、と菜々子は唇を突き出す。
(引っ込まないもんだなー)
最初のメンバーのうち4人が入れ替えられているにも関わらず、彼だけは頭から出っぱなしだ。メンバーチェンジの雰囲気もない。このまま最後まで起用するつもりなのだろうか。
しかしそんな彼はというと、ここにきても疲れという疲れを微塵も見せず、シュートの精度もほとんど落ちていない。
むしろ、はじまったばかりの頃よりも生き生きしているくらいだった。
中学の頃から、周りの部員より群を抜いて才能に恵まれていた彼は推薦入試で今の学校に進学した。
といっても、地元だ。でもその世界ではそこそこ有名で、毎年数人だが他県から人を呼んでもいる。
彼がこの学校に入った理由―――彼の本心については定かではない。
が、個人的に雑誌に取り上げられたことはあっても、団体的に全国に駒を進められなかった彼のもとへきた進学の話はどれもこれも中途半端で、気位の高い彼の意には添わなかったという噂。
その彼がふとギャラリーを振り仰いだ。
口元に運んでいたスポーツドリンクの手が止まる。
固まった表情。
完全に意表を突かれたって感じ。
彼がわたしを見てる。
わたしも彼を見返す。まばたきもせずに。
間抜けな視線にちらつく彼らしくない素朴な怯えの色。