まだあなたが好きみたい
ドアは菜々子のシートのすぐそばで、顔を上げればいやでも目に付くところに東がいる。
二人のやり取りの様子や雰囲気からどうやら眼鏡は東の先輩のようだ。
それなのに物怖じせず、ふつうに会話になっているところがすごい。
委員会では目も合わせられず、ただただ言われたことをはいはいとこなすばかりの自分とはまるでちがう。
もっとも東は中学から運動部に加入していて、必然的に縦の関係性を大事にせざるを得ない分、付き合い方のマニュアルがある程度備わっているのかもしれないけれど、
同じ委員会に所属していた頃も、やっぱり彼があんなふうに年上の人と気負わず馴れ合っている姿を見ることはなかったように思う。
愛想よく応じてはいても心の中ではどこか彼らを煙たがり、遠ざけていたような、そんな印象が強い。
だからだろうか、生き生きと先輩と話をしている東が前回会ったときよりもすごく大きく見えるのは。
それに、今日も今日とて小洒落れた身なりも相まって、なかなかどうして格好いい。
あくまで控えめな、彼の美点とも言える性格を残したオシャレがとてもよく映るのだろう、女子たちの視線が東に集中している。
彼らがこの車両に入ってきてからというもの、女子たちのあけっぴろげなおしゃべりが一転してささやき声になったのだからわかりやすいことこの上ない。