まだあなたが好きみたい



(どんな話してるんだろ)



笑ったり、驚いたり、かと思えば難しそうな表情になったり。


周囲の女子たちにはまるで気が向かないみたいに、彼らは二人だけで盛り上がっている。



と、眼鏡の人が大きく背中を反ってひときわ大きな笑い声を上げた。




そのわずかな時間、眼鏡と東の間に隙間が生まれると、いきなりドアのガラス越し、彼らを物欲しそうに見つめている自分自身と目が合って、菜々子は体がぐらつくほどうろたえた。





……お、思いっきり見てた。





自分は周りの子たちとはちがうとすまし顔をして、背筋もぴんと伸ばしていたというに、この恥ずかしさはない。




実はわたしが一番熱心に二人のやり取りを気にしていたみたいじゃないか。



そして、あわよくば彼らの話に混ざりたい……という。






いや、そこまでではないか。






混ざりたい、じゃなくて、ただ、気質の明るくなった東と話をしてみたい――そう思ったのは、あながちうそじゃない。






あの頃は、あくまで作業をする過程で必要な話をするだけだったけれど、それでさえ、東と言葉を交わす時間は他とはちがった。




たのしい中にも和むゆるさが同棲して、その気負わない感じがうれしくて、



東とは馬が合うんだと思ったあのときの瞬間を忘れたことはない。





彼は今でも菜々子にとっての特別だ。



だから、必要以上に気になるのだろう。








東と同じ電車に乗ることなんてめったにないのに残念だなと、ひそかに嘆息した、




まさにそのときだ。




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