まだあなたが好きみたい



かわいいって、いったい誰のことだろう。





……なんて、自分でも白々しい疑問が頭に浮かんだ。



思い上がってる。うぬぼれるな。ぜったいちがう。



そう言い聞かせるけど、でも、見るからにわたしだ。




もっともそれだけじゃあ裏づけるには弱いけど、これだけ目が合って別人とか、たぶんない。


右隣は保険屋の資料がカバンからはみ出てるおばさんで、左はギターを小脇に抱えて爆睡中の男子高校生。


彼らのちょうど真向かいに当たるドアのそばに女子高生がたまってはいるけれど、彼女たちの中の誰かだったら眼鏡の瞳はもっと上を向いてるはず。




話を聞いていた東が困ったようにうなづいた。




そして、目配せらしい視線を眼鏡に送ると、次いで、考えの読めない眼差しが掬うように菜々子へと向けられた。






彼のつま先が動いたのが見えた。






その瞬間、いきなり自分が、ただのひとりきりなのだという今の状況を強く意識した。




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