まだあなたが好きみたい



胸騒ぎがして、そしてそれが伝染ったかのようにのどがふるえた。



来る、と直感した。



東の無言のアピールに、しかし菜々子は気づかない姿勢に徹し、いつもは触らない携帯をめずらしく取り出した。


着信のない携帯を注視し、あたかもメールが着たかのように指を動かす。




いつだったか、携帯は手っ取り早く効果を発揮する牽制アイテムだと聞いたことがあった。






(わたしじゃなかったらそれでいいんだし)






思い込みで済めば、それで。




電車は走る。しかしまだ駅は遠い。眼鏡の最寄り駅はどこなのか、彼もまた降りる様子はない。




牽制は効いているようだった。わたしが黙々と携帯に集中するようになってから、目に見えていやな気配が遠のいた。





それでも、まだ、もしかしたらとの怯えが繰り返し胸裏を過ぎる。





かわいくね、といった眼鏡の言葉。


意味ありげに東に囁いた、なにか。



さらにそれに頷いた東が何かを請け負ったようにつま先を動かしたあの動作。





被害妄想かもしれない。




でも……、と思考は信じたくない方向にばかり流れていく。





……もしそうなら、最悪だ。






眼鏡ひとりが興味を抱いてくれたならまだしも――。




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