まだあなたが好きみたい
東がなにかしらの関わりを持っていたとしたら……。
たとえば。
(うわっ)
いきなり振動に体を取られ、菜々子はぐらりとよろめいた。
あわてて首をめぐらせると隣にいたはずのギター男子高生の姿がなかった。
その彼は今、東たちの傍でドアの前を押さえている。一番手でホームに下りるためだろう。
と、なんとはなしにそんなことを考えて彼の背を追っていたら、思いがけずまともに東と目が合ってしまった。
がつん、と危ない音がして、菜々子の携帯が床で跳ねた。
ぎょっと目を剥き、菜々子は慌てて手を伸ばす。
しかし車体の揺れで、携帯は逃げるように菜々子の手を離れていった。
さらに運のないことに、携帯は東のほうへと滑っていくと、当然のごとく上から彼の手が落りてきた。
全身を戦慄が駆け巡る。
それだけは。
それだけは、やめて!!
菜々子が声にならない悲鳴を上げたそのとき。
東の爪がかかるかかからないかというきわどい局面で事態は急転した。
どこからともなく第三者の手が現れた。そして、あたかも鷹が川面の魚を捕らえるように、ほとんど離れ業のスピードで菜々子の携帯を拾い上げた。