まだあなたが好きみたい
反射的に振り仰いで、菜々子は顔をしかめた。
急激に血が下がったせいで鋭い頭痛とめまいを覚えた。
影に隠れて顔はよく見えなかったけれど、拾った腕の制服からして、その人は東でも、またその先輩の眼鏡でもない、どこかの男子学生だった。
こめかみを押さえて痛みをやり過ごしつつ、拾ってくれた神のような闖入者に礼を述べようとしたとき、菜々子は今度はその第三者からいきなり手首をつかまれた。
菜々子はぎくっと身を固くした。
そしてさらに、立てと言わんばかりに引き上げられて、混乱は極致を極めた。
(今日、ほんとについてない)
菜々子は泣きそうだった。
眼鏡に対して猜疑心にとらわれたばかりで、今度はまさかの痴漢か? だったら東に助けを求めようか。
いや、それも気が引ける。それがきっかけとなって相手のいいように持って行かれたらいずれにしろ地獄。もはや意地だった。
いずれにしろ窮地なら、ただの痴漢の方が手加減はいらない。
と菜々子は意を決し、きっと眦を上げて、男を見た。
そして、驚愕した。
「――なっ!」
この粗野なやつはなんと、あの窪川その人だった。