まだあなたが好きみたい
それ? と訝しげに窪川の示したところを見て、菜々子は自分が無意識のうちに彼に掴まれていたところをさすっていたことに気づいた。
「別に」
そっけなく言って菜々子は手を下ろした。
「で?」
菜々子は訊く。
窪川は眉間にしわを寄せた。
「……で? でってなんだよ」
「なんだよって、それはわたしが聞きたいんだけど。なんで、わたし、今あんたとここにいるの?」
すると、窪川はまるで心外だとでも言わんばかりに目を見開いた。
「助けてやったんだろ。俺が。おまえを。親切にも。タダでな!」
どうだ、と言うように得意顔の窪川を菜々子は冷めた表情で見つめる。
「恩着せがましい言い方。でもせっかくですけど、わたしが礼を言う理由にはならないわね。だって、頼んでないもの。それにわたしの質問の答えにもなってない」
「は、はあ!? だっておまえ明らかに嫌々オーラ放出しまくってたじゃん。あのメガネザルみたいな、ロコツな鼻の下伸ばし野郎に絡まれたくなかったんだろ!?」
「メガネザルなんて言わないで。まあ、たしかにあの人と目が合ったことは認めるけど、別に鼻の下を伸ばしてたようには見えなかった。目が合ったのだってただの偶然よ」
「いいや、ちがうね。向かいに東がいた。ちょくちょく東に耳打ちしてたのはおまえのことを話していたからだ。あの眼鏡はあきらかにお前を狙ってた。それにおまえも薄々気色悪いもんを感じてたんだ。見てればわかった」