まだあなたが好きみたい
本気で応援しに来ていた生徒だったら今ごろきっと泣いていた、かもしくは、来て損したと逆ギレしていたかもしれないというくらいの、いっそ綺麗な負けっぷりだった。
逆に、彼の学校、1回戦は大勝利。
しかし菜々子にとって、我が校の勝敗や大会全体の行方、そもそもバスケそのものにだってさしたる関心はない。
声、かけようかな。
なんどかそうも考えた。
けれどついさきほど、運の悪いことに、彼が角の廊下で彼女らしき女の子と鼻がくっつきそうな距離で話をしている姿を見てしまった。
だからなんとなく憚られた。
もっともそれは―――
彼に恋人がいる、という事実にではない。
彼女が会場にいる、という状況が菜々子の足を踏みとどまらせた。
彼に声をかけることなんて造作ない。問題は、それが元で女に睨まれることだった。
混雑するエントランスの隅に寄り、人波が落ち着くのを待ちながら思案に暮れていると、菜々子はふとある一団を視界の端に捉えて、これだと閃いた。
何を隠そう彼の学校である。
揃いのジャージ。さきほどの試合で覚えたばかりの主将の顔を先頭に、気怠げな彼が後に続く。
「菜々ちゃん、これからどうする」
「有正、あんたトイレに行きたいでしょ?」
「うん? トイレ? え、いや、別にそうでも……」
「行きたいよね? 行きたいでしょ、ね?」
菜々子が迫ると、有正はなにがなんだかわからない様子でうろたえた。
「え? え?」