まだあなたが好きみたい
吐息が触れるか触れないかというぎりぎりの、生々しいくらいに際どすぎる境目を、あんなにも容易く飛び越える。
こんなにも人がいるのに。
誰が見ているかわからない。その中でさえ。
……関係ないか、と菜々子は自らの古風な観念を打ち消した。
あれで、いいんだ。
だって、彼女には、その特権があるのだから。
……苛つくのに、納得せざるを得ない光景に涙がこみ上げた。
わたし、なにしてるんだろ。
何度も思って、そのたびに打ち消した自問が今こそ肩にのしかかる。
完成された眺めを、邪念に覆い尽くされた自分が遠巻きに見つめている、その痛い事実。自分で自分を脇役に据えている一貫した三流っぷり。
わたしに幻滅。
そうおもうとますます気持ちは落ち込んだ。
……悔しかった。
みじめだった。
けれど、そうおもえばおもうほど、一方で、ひどく反抗的な感情が腹の奥に渦を巻き、噛み締めた奥歯が軋むような音を立てた。
次の瞬間、面を上げた菜々子の目には殺気にも似た暗い炎が揺らめいていた。
(悔しくないわけない。でもここで帰ったら見たくもない試合を最後まで観戦した甲斐がないじゃない)