まだあなたが好きみたい
そこで、
「あのさあ、ひとつだけどうしても言いたいことがあるんだよ」
とおもむろに有正は言った。
「なんだよ」
大人にしょっ引かれ、抵抗する悪ガキのように有正は肩越しに匡をねめつけながら、
「菜々ちゃんを泣かせないでくれるかな」
有正は隙のない声でそう言った。
そして次の瞬間、まるで仮面が外れたみたいにいきなり切り替わった有正の真顔が俺の胸を圧迫した。
「泣かせては、ない……はずだ」
むしろ涙が出ていたのは俺のほうだ。
「泣いてることの条件がすべからく涙が出てることとは限らないでしょ。ばかだなあ」
なにやら深いことを言いやがったと鼻白んだ矢先にこれだ。目の前が大通りじゃなかったら確実に鼻っ柱をへし折る一発を見舞ってる。
「菜々ちゃんが落ち込んでるとさあ、ぼくが困るんだよね」
「はあ? なんでだよ。お綺麗な友情ごっこは勘弁しろよ。だいたいおまえら、幼馴染っつってもあいつは女で、おまえは男なんだからな。そのへんちゃんと分別持てよ」
「はーあ? なにそれ、分別? 昭和? そんなこと言う前にまず弁えるべきは自分自身の軽率さじゃない?」
「あんだと――」