まだあなたが好きみたい
あんな女ごとき。
自らを叱咤した瞬間、本能的に何かを察知したのか、始終あたりに気を払っていた彼の視線が奇跡のように菜々子を捉えた。
瞠った目。くちびるがひくつく。
菜々子は軽く微笑むと、計算どおり、絶妙な距離を置いて先にゲートをくぐり抜けた。
すこし間をあけて肩越しに振り返ると、彼が彼女に何かを話している姿が見えた。
男の肩越しにわずかに見て取れる訝しげな彼女の表情が意味するものは、果たして菜々子の想像する未来を暗示しているのか、否か。
菜々子は携帯を取りだした。
もしそうならそのときに備え有正に連絡を入れておかねばならなかった。